タクシン元首相が安倍総理と会食

　タクシン元首相は１０月２６日、安倍首相と都内のホテルで昼食を取りながら会談した。報道によれば、元首相は安倍首相の経済政策を評価しており、両国の経済状況などについて意見を交換したとされる。

　現在、安倍首相は円安誘導政策の成功、参議院選挙の勝利、またオリンピック東京招致の成功などによって、高い支持率を維持している。安倍首相に面会を求める政財界人は多い。そのために、安倍首相は何人かと同時に食事を取るケースが多い。その多忙な安倍首相が休日である土曜日の昼にタクシン元首相一人と会談したことは、異例の待遇と行ってよい。

　安倍首相は外交に詳しいわけではない。今回の会談は外務省の判断に従ったとしてよいだろう。外務省は現在でも元首相がタイの政治に対して強い影響力を持っていると考えて、会食を設定したと思われる。元首相は２００６年にクーデターで国を追われてから既に７年が経過したが、それも国内政治に強い影響力を有している。

　このような報道に接するにつけても、タクシン元首相は田中角栄元首相によく似ていると思う（過去のブログでも触れた）。田中元首相は逮捕され刑事被告になった後も、強い政治力を維持した。

その頃、日本を訪ねた中国の要人は、わざわざ田中元首相の私邸を訪問したものだ。元首相は日中国交回復に尽力した。私邸を訪ねた要人は「井戸の水を飲むときは、井戸を掘った人を忘れてはならない」と言う中国のことわざを引いて、その訪問を正当化していた。

　ただ、田中元首相の政界に対する強い影響力は９年間しか維持できなかった。子分であった竹下登氏（彼は後に首相になった）が反旗を翻し、それに怒った元首相が夜中にウイスキーをがぶ飲みしながら竹下氏に同調した人々を電話で説得していたときに、脳梗塞で倒れたからだ。法的に不安定な状態いたことが、子分の離反や病の原因になったと考えられる。

この事実は、不安定な状態で政治権力を維持することが容易ではないことを示している。不安定な状態は当人にとっても、その周辺の人々にとってもすごいストレスになる。田中元首相はストレスの下で９年間にわたり政治力を維持したが、それはあっけなく終焉した。既にタクシン元首相が海外で過ごした時間も７年になった。田中元首相の例にならうと、その終焉は案外近いのかも知れない。